2018年09月06日 / ー これでいいのか?日本の医療, ー 学会・講演・メディア掲載情報, ▶︎【 院長の部屋 】
なぜ、日本の医療は、ご高齢の患者さんの期待に応えられないのでしょうか?
医学の父ヒポクラテスは、“賢者は健康が最大の人間の喜びだと考えるべきだ”と述べ、“病気は人間が自らの力をもって自然に治すものであり、医者はこれを手助けするものである”と諭しています。西洋医学は、病気の原因を、細胞、分子、遺伝子レベルまで探索し、それを正常化する方法を追求し、実際に人での効果を確認してきました。治療の目的は、健康な体を取り戻すことでした。
私が医師になった頃と最近の日本の医薬品売り上げトップ5を比較した表をご覧下さい(出展IMS医薬品市場統計)。1985年は、クレスチンを除くと抗生剤が独占しています。抗生剤は細菌感染を治療する薬で、一定期間投与することで、病気は完治し、患者さんは健康に戻ります。2010年には、抗生剤に取って代わり、降圧剤、抗認知症薬、高脂血症治療薬、鎮痛剤がトップ5です。これらの薬は病気を治す薬ではなく、症状を緩和する薬です。降圧剤は、血圧を下げますが、その患者さんから高血圧という病名はなくならず、血圧を下げるために、一生薬を飲み続ける必要があります。ところが、日本人の三大死因は、がん、心疾患、脳血管疾患です。がん以外の疾患は、高血圧や、高脂血症を背景とした動脈硬化が原因です。つまり、治療のため薬を飲み続けた病気で亡くなっています。これで病気を治療したと言えるでしょうか?
2011年東日本大震災の後、物流が止まり、太平洋沿岸の東北地方に薬の供給が止まりました。常用薬がなくなり、体調を崩される方が増加しました。薬で維持された健康はとても脆弱です。
製薬会社にとって、一時的に使用する抗生剤より、投与を開始したら一生飲み続けなければいけない薬の方が安定した利益をあげる事ができます。今や、ほとんどの製薬会社は抗生剤の開発をやめています。この状況で、現有の抗生剤が効かない耐性菌が出現すると、ペニシリン発見以前の細菌感染が蔓延する時代に戻る事が懸念されています。
ここ20数年の間に、日本の医療は、健康を取り戻す根治治療から、症状を緩和する対症療法主体に転換しました。そして、まさにこのことが、現在の日本の医療に多くの問題をおこしていると、私は考えます。次回は、対症療法主体の医療の弊害について、考えます。