2015年01月16日
日本の国民医療費は、皆さんごご存知のように、高齢社会に突入し、増加の一途です。1990年には20兆6,074億円であったのが、2010年には37兆4,202億円と倍近くになっています。その内訳を見ると、手術、検査、点滴など入院にかかる医療費は1990年の41.5%から、2010年は37.7%と減少し、検査、治療など外来にかかる経費も45.7%から35.1%へ減少しています。これに対し、薬剤関係は、2.6%から16.4%まで増えています。医療費に占める薬剤費の比率を他の国と比較すると、日本では31.0%であるのに対して、フランス19.9%、ドイツ17.1%、イギリス16.4%、米国11.3%となっています。国際的に見ても、この20年で日本の医療が薬に依存する傾向が急速に進んでいることがわかります。
私が医師になった30年前は、医薬品の売り上げのトップ10は抗生物質で占められていました。近年は、抗がん剤の他、降圧剤、糖尿病の薬、鎮痛剤、高脂血症薬、リウマチ、喘息など慢性病の治療薬、向精神薬など死ぬまで飲み続ける薬が上位になっています。日本の70才以上の方の2人に1人は降圧剤を常用しています。薬剤費が増えるのも理解できます。しかし、薬に頼らないで、食事や毎日の生活を注意することでも健康は維持できるのです。
日本における睡眠薬、抗不安薬の消費量もうなぎ登りです。医療機関が処方する向精神薬のうち、患者様1人に処方される1日の睡眠薬の量が2005~2009年の4年間で3割増えたことが、厚生労働省研究班による過去最大規模の約30万人への調査で分かりました。処方された患者様の約3割が4年後も服用を続け、このうち薬が減っていない人は約7割に上ります。日本では、睡眠薬・鎮静剤が年間18億錠消費されており、世界でも群を抜いています。向精神薬を4週間以上服用すると、薬に対して耐性がつき効果が減少したり、薬に対して依存性がでることがあります。急に中止すると、いらいら、強い不安感、不眠、ふるえ、けいれん、混乱、幻覚など思わぬ症状があらわれ、大変苦しまれる患者様もいらっしゃいます。健康な人に抗うつ剤を投与すると、焦燥感、不安が強くなり、自殺傾向を示すようになります。うつ病と診断された方のうち、抗うつ剤による治療を継続的に受けた方と、治療を受けなかった方を18年間継続して比較したところ、抗うつ剤を服用した方のほうが3倍自殺を含め死亡率が高かったという報告があります。抗不安薬は、6週間以内の投与であれば、若干の効果が得られますが、長期に服用するとかえって不安感は悪化し、新たな精神症状が発症する危険も高いとされています。以上より、WHO、世界保健機構では、合理的な抗不安薬の投与は、30日以内が妥当としています。ストレスの多い世の中、薬を飲まなければやっていけない状況もあるかもしれませんが、やはり薬、特に向精神薬は出来れば長く飲みたくないものです。
薬に頼る対症療法は、病気そのものが治るわけではなく、症状を緩和しているだけですから、自ずとその治療効果には限界があります。マイケル・ジャクソンは2009年6月25日自宅で亡くなりました。まだ50才でした。彼は不眠と全身の痛みに悩まされていました。彼の主治医、コンラッド・マレイ医師は、薬で症状をコントロールしようとしましたが、徐々に薬の効果が無くなり、より強い薬をより大量に使用するようになりました。そして最後は、致死量の麻酔薬プロポフォールを投与し、それが原因でマイケルは亡くなりました。これは、薬に頼る対症療法が如何に危険かを教えてくれています。一方、英国女王エリザベス2世は今年、88才になりお元気です。イギリス王室は、皆さん長生きされていますが、主治医の一人ピーター・フィッシャー医師は、王立ロンドンホメオパシー病院の理事です。西洋医学に補完・代替医療を加えた統合医療をイギリス王室は採用しているのです。薬に頼らないバランスのとれた医療を見習うべきではないでしょうか?さて、もし皆さんがお抱え医師を雇うとしたら、コンラッド・マレイ医師にしますか?それとも、ピーター・フィッシャー医師にしますか?