統合メディカルケアセンター「Tree of Life」

2015年01月13日

Vol.03 超高齢社会における言語聴覚士の果たす役割

映画で話題になった言語聴覚士という職業

皆さんは言語聴覚士という職業をご存じでしょうか?聴覚や、音声言語、嚥下など人間が人として人生を楽しむための大切な器官に障害がある方の、検査をしたり、回復のためのリハビリテーションを指導する職業です。あまりなじみのない職業かも知れませんが、2011年のアカデミー作品賞を受賞した”英国王のスピーチ”という映画で、国王の吃音の指導を行ったのが、言語聴覚士です。

この映画では、吃音症を患った英国のアルバート王子が治療により吃音を克服し、ナチスドイツに立ち向かう英国をリードし、国民から敬愛される王、ジョージ6世へと成長する過程が描かれています。現エリザベス女王の父上の実話のため、なかなか出版できなかった作品でした。言語聴覚士の指導を受け、家族の暖かいサポートにより吃音を克服したジョージ6世が、第二次大戦の開戦に臨む演説を国民に向けて見事に行うラストシーンは感動的です。ジョージ6世を演じたコリン・ファースは、吃音を患う方の話を聞き、役作りをしたそうですが、言葉の障害が、如何にその人の人生に大きく影響しているかを知り大変驚いたそうです。言葉の問題があると、人と話すことに恐怖を感じ、自分の生活、活動の範囲が狭くなります。自分が話せる言葉でしか語れないので、外国語で話すように、自分が表現したいことを話すのではなく自分が話せることしか表現できないもどかしさ、苦しさを常に感じるといいます。人にとって、コミュニケーションの手段である言語が如何に大切かがわかります。言語に問題がある方は、見た目には健康ですが、大変な障害を抱えていることを周囲の人も理解する必要があるのです。

発声、嚥下、聴覚リハビリテーションのプロ

発声法の指導は、言語聴覚士やボイストレイナーが行います。ボイストレーナーは、アナウンサーや俳優、歌手など、声を使う仕事をされていた方が行う場合が多いようです。ご自分の経験から、発声法を指導されるので、あがり症で声が出なかったり、うまく大きな声が出ない方には、大変有益です。ただ、発声のメカニズムに精通されているわけではないので、声の症状によっては、うまくいかない場合もあるでしょう。ボイストレーナーの方が、ご自分の声帯に結節が出来てしまい、声がかすれて来院されることもあるほどです。

これに対して、言語聴覚士は、国家資格を持つ、発声、嚥下、聴覚のリハビリテーションを指導するプロです。音を認識する耳、音声を発する喉頭、構音や嚥下などに関与する口腔・咽頭など、私たちが人生を楽しみ、人間として活動するために不可欠な機能を司る器官が障害されたとき、患者様の機能を改善する手助けをする大変重要な仕事です。喉の解剖、生理、病態に精通しており、患者様の発声法のどこに問題があり、その問題を解決するためにどうしたらよいか、指導することが出来ます。私は言語聴覚士を育成する北杜学園で、音声障害の授業をもう10年近くしています。若い熱意のある学生さんに講義をするのは、とても楽しみです。2年間の課程を修了し、国家試験に合格した後、様々な施設で活躍しています。実地の現場で、難しい症例に当たると、相談してくれる場合もあります。遠く秋田から、患者様を紹介してくれた事もありました。声が震える方、声が詰まる方、大勢の人の前で話をする時うまく話せない方、吃りがある方、声が急に裏返ってしまう方、声変わりの時期に声がおかしい方、音声手術後に声の改善が十分でない方、構音がうまくいかない方、学校の先生など声を日頃酷使する方で声がかすれる方、加齢に伴う声のかすれなど、様々な声の不調が対象となります。むせ込み、えん下障害でお困りの方も対象です。言語聴覚士は医師と共に患者様を診察し、声の問題がどこにあり、どのような音声訓練が有効か判断します。訓練のプログラムが決まると、音声訓練を患者様と1対1でご指導します。1回のセッションは、30分ほどです。数回、セッションを繰り返すことにより、音声機能の改善が可能となります。当院で治療を受けた方が、全国レベルの大会で優勝されたり、プロの歌手として活躍されることもあります。

人生を謳歌するために

今まであきらめていた声の問題を是非、解決してください。声がかすれても、命に影響ありませんが、人間らしい生活を楽しむために、声はとても大切です。医学は、不老不死の妙薬を探すことから始まりました。20世紀の間に、人間の寿命はほぼ倍近くに伸びました。今、100才以上のお年寄りも沢山いらっしゃいます。不死の目的は、大分達成されつつあります。死を迎えるまで、いかに若い頃の機能を保ちながら、人生を謳歌できるか、不老については、21世紀の大きな課題です。高齢化社会の中、加齢現象により低下した機能を回復する治療は大変有意義だと感じています。