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2018年09月22日 / , ,

これでいいのか?日本の医療   第5話 分子薬理学は、人類の救世主なのか、バベルの塔なのか?

新しい薬ができるまでには、化学的に薬を作り出す基礎研究、薬の効果や副作用を調べる動物実験、人での臨床試験の積み重ねなど、約15年間の歳月と、300億円の費用がかかります。経済産業省技術戦略マップ2009「バイオテクノロジー:創薬・診断分野」によると、新しい薬の候補が見つかって、実際に医薬品になる確率は約2万分の1です。

しかも、動物実験は、優れた実験計画を立てて、遺伝的にほぼ同一のマウスを使用しても、同じ結果が出ることはありません。何回も動物実験を繰り返さなければ、信頼性の高い結果は得られません。その一方で、動物愛護団体からは、動物実験は動物の虐待だと、厳しい批判を受けることになります。

1938年、ウォーレン・ウィーバーにより提唱された分子生物学が、1970年代には、高等生物に応用されるようになりました。生命現象を遺伝子、分子レベルで明らかにしようとする学問です。膵臓からインシュリンが分泌されるのは皆さん御存知だと思いますが、分子生物学の手法を使うと、膵臓を構成するどの細胞から、どのようにインシュリンが合成され、どのようなときに、どのように分泌されるかがわかります。

製薬会社、薬理学者が、この方法を見過ごすはずがありません。細胞表面の受容体をブロックする物質、ある物質の活性を抑制する物質、あるいは活発にする物質など作るべき薬の、構造、機能が明確になりました。そして、試験管の中で、バラバラにした1個の細胞に新薬を作用させる実験は、ほぼ毎回、同じ結果になりました。細胞に対する実験ですから、動物愛護団体からの批判もありません。新薬開発は順調に進み、沢山の降圧剤、糖尿病薬、向精神薬などが作られていきました。これらは、確実に血圧を下げ、血糖値を下げます。分子薬理学は、人類の救世主のように感じられました。しかし、高血圧、糖尿病を完治させる薬ではありませんでした。


病気は、いくつもの事象が、ドミノ倒しのように連続して関連し、発症します。最初のドミノが倒れるのを防げば、病気は治ります。しかし、分子薬理学で作られた薬は、ドミノ倒しの末端近くのドミノを支える薬です。薬の効果は、血圧、血糖など数値にはっきりと表れます。しかし、大本のドミノが倒れるのを止めているわけではないので、ずっとドミノを支え続けなければいけません。薬を飲み続ける必要があります。徐々に、支えることができなくなり、より強い薬、より沢山の薬、より大量の薬が必要になる事もあるでしょう。最終的に、支えきれなくなると、病気の進行が止められなくなります。これまで、対症療法の弊害についてお話ししてきましたが、分子薬理学によって作られた薬は、対症療法の主役です。分子薬理学の隆盛が、日本に対症療法主体の医療をもたらしたと言っても過言ではありません。

分子薬理学で作られた薬は、試験管の中の1個の細胞には確実に効果を発揮します。しかし、私たちの健康を守る救世主になる事はないでしょう。なぜなら私たちは、アメーバのような単細胞生物ではなく、この地球上で最も進化した多細胞生物のホモサピエンスなのですから!

次回は、単細胞生物と多細胞生物の違いから、私たちの健康の維持に本当に必要なものは何かを考えます。

朴澤 孝治

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